-臨床僧の会・サーラ-

季刊『禅文化』220号で掲載させていただいた、-臨床僧の会・サーラ-につきまして、ブログでもご紹介させていただきます。
「臨床僧の会・サーラ」
 臨床僧は、病院・福祉施設・在宅などで病と闘う人たち、死に直面する人たちの傍らに寄り添う僧侶です。
 現代医学は様々な病を克服し、人々に大きな喜びを与えてきました。地獄の苦しみと言われてきた末期癌の痛みも、疼痛医療の発達で緩和することが可能になりました。その恩恵は計り知れません。
 しかし一方で、「医者は病気を診て、患者を診ていない」と言われてきたような、治療偏重の弊害は依然として改善されていません。例えば、医学的に治療する手立てが尽きた末期癌患者は、死の恐怖と闘いながら、ベッドで無為な時間を送っています。何故なら、治療の手段を失った段階で、医学的には敗北したと判断されてしまうからです。〝生命〟を救うことだけを学んできた現代の医療は、患者の人生をも含んだ〝いのち〟を救う術を持ちあわせていないのです。
 そんな、医療が救うことのできない“いのち〟を救えるのは、「生死」を一体のものとしてとらえる仏教ではないでしょうか。
 二千数百年前、仏陀が「医王」とも呼ばれたのは、単に病を治す知恵を持っていたからではありません。病人の排泄物の世話をしたという逸話が残されているように、自らが辿りついた境地を基盤に病人に寄り添い、〝身体〟と〝こころ〟両面のケアを行ったからに違いありません。生と死の狭間で悩み苦しむ人々の声を聞き、共に考え、道を指し示したのです。現代の臨床僧もまた、患者とその家族に寄り添い、喜びと悲しみを共有することを目指します。


 しかし、現代の医療現場は、医師や看護師、薬剤師、検査技師やカウンセラーなど、様々な資格を持ったスタッフがチームを作って活動し、多職種の専門家が情報を共有しながら患者の治療やケアにあたっています。そこで、臨床僧もまたそのチームの一員となるべく、ヘルパーやケア・ワーカーなど、患者に触れることができる何らかの資格を取得する必要があります。次に、本会が定めた初期研修(講義・実習を含め三泊四日)を受講修了することで、臨床の場に立つための基礎的な知識と心構えを身につけていただきます。そのうえで、会として適当と判断し、医療施設からも受け入れの要請と承諾があってはじめて臨床の場に加わることができますが、その時期としては機縁を待たなければなりません。会としてはその後も定期的な研修プログラムを用意し、またそれぞれの医療現場で必要に応じた研修と実習を重ねることは言うまでもありません。
 臨床の場は、マニュアルのない世界です。患者一人ひとりが異なった人生を歩んで来た以上、背負っている歴史や環境も様々です。その心に寄り添うためには、介護などを通して相互理解を深め、お互いのこころを通わせる必要があります。そして、そこで問われるのは〝個〟です。どんな言葉より、一人の人間としての立ち居振る舞いが、信頼感を生みだします。勿論、その背景には、僧侶として研鑽してきた仏の教えが控えているはずです。活動しながら、更なる研鑽を重ねなければなりません。臨床僧の活動は、長期に亘って続くものです。日常の寺院活動を考慮すると、一週間に一日程度が限度かもしれません。したがって、臨床僧もまた、地域ごとに五~六名のチームで活動します。チーム内のメンバーが時間を融通し合いながら、息の長い活動にする必要があります。チームの人数も、それぞれの実情に応じて増減させることが可能です。また、人数が揃わない地域でも、その規模に応じた活動を調整します。不定期でも、患者に寄り添う機会は必ずあります。
 『臨床僧の会・サーラ』は、宗派を問いません。資格取得などの要件を満たせば、誰でも参加することが可能です。地域ごとに中心になる僧侶を選び、事務局と連絡を取りながら、宗派や教団の枠を超えて活動します。仏教の危機が叫ばれ始めて三十年以上の時が流れましたが、一部のこころある僧侶を除くと、ほとんど何も変わっていません。今は、漠然とした不安が、仏教界を覆っているだけです。しかし、このままでは崩壊は目前です。宗教法人への課税など、各寺院の存在を揺るがす施策が、既に俎上に載せられています。そうした問題が表面化する前に、一日も早く社会に関わり、僧侶本来の在り様を示す必要があります。会の運営は、会費と寄付金で賄われます。会費は、法人が一口十万円、個人が一口一万円です。実際に活動できなくても、趣旨に賛同して下さる方は賛助会員としてご協力ください。運営資金や活動資金にさせていただきます。
 『臨床僧の会・サーラ』は、平成二三年二月一六日に発会しました。この日、臨床研究で滞英中の対本宗訓代表が一時帰国して会員の僧侶八名と初会合を開き、臨床僧としての心得や活動内容について話し合いました。会の活動は随時ホームページ上でも発信していきます。皆様のさらなる関心とお力をお寄せください。〔児玉 記〕
代表発起人(五十音順)
臨済宗相国寺派 有馬賴底管長
臨済宗妙心寺派 河野太通管長
幸・総合人間研究所 早川一光所長
『臨床僧の会・サーラ』
代表 僧医 対本宗訓
事務局長  児玉 修
〒617-0824 京都府長岡京市天神2-28-14
       TEL/FAX 075-954-1005