『大鹿村騒動記』


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秀逸の映画だ。こんな作品に出会うと、日本映画の底力が感じられて、なんとなく誇らしく嬉しい。主演の原田芳雄と大楠道代の名を見て、鈴木清順のツィゴイネルワイゼンをボォーッと思い出した。二人のほか、岸部一徳、松たか子、佐藤浩市、瑛太、三國連太郎、石橋蓮司、冨浦智嗣、小林武彦、小倉一郎等が名を連ねている。よくぞ集めたと、見る前から感心してしまっていたが、見たらもっと感心した。
演技力と華の具わった役者のおかげもあって、どのシーンもこの上ないものに仕上がっている。笑いも見事だ。妻の出奔、痴呆症、性同一性障害・・・各々が背負った日常はずっしりと重いのに、陳腐な”常識”や、ステレオタイプの悪意がすっかり抜け落ちていて、なんとも温かい可笑しさが物語を大らかに牽引して、大鹿村歌舞伎という「大事」が粛々と行なわれる。
日本で一番美しい村、大鹿村の人たちが、ほとんど総出で歌舞伎の場面をもりたてているのも、スクリーン越しにしっかり伝わってくる。
たった一つ、まことに残念なのは、この映画の企画立案者だった主演の原田芳雄さんが7月中旬に亡くなったことだ。常軌を軽々と逸することのできた、稀有な俳優さんの一人だった。
心よりご冥福をお祈りいたします。