愛媛県は大洲市にあります”臥龍山荘”を訪れました。
市内を流れるおおらかな美しい肱川。その臥龍淵の崖の上に建つ不老庵、知止庵、臥龍院の建物からなり、敷地は3千坪。
もとは文禄期に渡辺勘兵衛が庭園を築き、その後大洲藩主の加藤家に引き継がれていましたが、明治期に入り荒廃。そこで、大洲出身の貿易商、河内寅次郎が復興させました。
京都の桂離宮を思わせるようで、それでいて独特な発想による様式も施され、構想10年・工期4年をかけた彼の理想の地である事を、随処に伺い知る事ができます。
茶の湯をたしなむ者には、臥龍院の建築において、雪輪窓の塗りや床框の塗りが中村宗哲、欄間は駒澤利斎、襖の引き手や縁側の留め釘が中川浄益、襖は奥村吉兵衛など、千家十職のうちのいくつかの職家が携わっている事に感嘆を隠せません。
もちろん、美しい唐紙の襖紙は、唐長によるもの。意識をもって見つめれば、学ぶ所だらけで、なかなか先に進めないくらいに素晴らしい名建築なのでした。
臥龍院を裏から観た所。左官の仕事も見事。駒澤利斎による透かし彫も美しく、さらに屋根の手のこみよう、美しさも圧巻。日本の職人の仕事の凛とした美しさは、建物の印象を引き締めます。
庭におりても、飛び石の一つ一つがすこぶる趣があり、良い石が使われているのが素人目にもわかります。
元は浴室であったところを改装して作られた茶室、知止庵。私はことのほか、この茶室の名前が気に入りました。“知止(ちし)”。小間の空間で茶を喫するに相応しい名だと思います。
そして、崖の上に建つ不老庵。
川の崖淵に建つ為、川の上に浮いているような感覚が生じる不老庵。屋形船を模しているとの事。
不老庵から望む肱川。河内翁の故郷を愛する気持ちが伺えるよう。そして、右側の写真は、不老庵の天上。弧を描いた天上に、水面の反射する様が伺える。月の出た夜には、水面に輝く月灯りを反射するのだとか。夜の拝観は行っていませんが、月夜にお邪魔してみたいものです。
愛媛県大洲市。なかなかに行きにくい場所かもしれませんが、この臥龍山荘を拝見する為だけにでも行く価値ありだと思いました。