何年か前から、寺社の朱印集めがちょっとしたブームらしい。参拝の記念、神仏結縁の証しになることは勿論だが、黒々とした墨痕と鮮やかな朱印とのコントラストは、視覚的にも美しい。
神社・寺院の区別や順序などにこだわらず、一つの朱印帳に漫然と集めるのもよい。しかしテーマを立て、順番などにもこだわりながら集めると、目標が出来て達成感も異なり、何より勉強になる。
仏教では早くから四国八十八箇所や西国三十三所など、決まった霊場寺院の巡礼が確立していた。江戸時代になると、それぞれの地域でミニチュア版の巡礼経路と寺院が定められるなど、庶民に親しまれた。
問題は神社だ。諸国一宮には専用の「全国一の宮朱印帳」がその筋により用意されていて、テーマと目標を決めて参拝・集印できる。
しかし一宮巡拝の難点は、膨大なこと、全国に散在すること、普段は無人の神社も多く事前連絡を要することなど、そのハードルは高い。相当な覚悟がないと、そのすべてを参拝することは一生かけても覚束ない。
私は10年ほど前、独自にテーマを立て、二十二社と呼ばれる神社を巡拝したことがある。二十二社とは、平安時代より朝廷から奉幣を受けた最高格の神社二十二のことである。
伊勢神宮
石清水八幡宮
賀茂神社
松尾大社
平野神社
伏見稲荷大社
春日大社
(以上、上七社)
大原野神社
大神神社
石上神宮
大和神社
広瀬大社
竜田大社
住吉大社
(以上、中七社)
日吉大社
梅宮大社
吉田神社
広田神社
八坂神社
北野天満宮
丹生川上神社
貴船神社
(以上、下八社)
いずれも近畿周辺の鎮座で、一部を除き参拝するのにさしたる困難はないだろう。数も多くはない。伊勢の内宮・外宮、賀茂の上賀茂・下鴨、丹生の上社・中社・下社を加えても二十六社である。遼遠とした目標ではないので挫折する心配もない。
番外としては広島県の厳島神社が考えられる。今年の大河ドラマの題材でもある平家の崇敬した神社だ。平安末期、平家の隆盛とともに厳島も加えて二十三社にしようという企てがあったが、結局沙汰やみとなったという。二十二社に準ずる神社と言えよう。
もちろん二十二社巡礼は私が勝手に始めたものだから、専用の朱印帳などない。二十二社の社格にふさわしい立派な専用朱印帳があって喜ぶのは私だけかも知れないが、神社関係の方、いかがでしょうか?
二十二社について記した文献『二十二社註式』の写本(個人蔵)
著者未詳ながら、この写本には奥書に「兼右」と明記してある。