古木が生い茂る鎮守の森。その姿は日本人の精神の原風景とも言えよう。「千古斧入れぬ」という形容もあるように、祖先たちはその保護に意を注いで来た。最近では巨木に対する関心も高まり、各地で調査保護の活動がなされている。
この鎮守の森に、思わぬ所から危険が迫っているらしいのである。
私の父が氏子総代を勤めている故郷の鎮守の森で、一本の桧(ひのき)が枯死した。直径1メートルもあろうかという巨木で、入札にかけたところ、保証金も含めて数百万という値がついた。大木が枯れたことは誠に残念ではあるが、不足しがちな神社予算に、思わぬ臨時収入が舞い込んだ。
ところが、である。
専門家に調べてもらったところ、地表に出た樹根の目立たないところに巧妙にドリルで穴が開けられ、なんと除草剤が注入されていたのである。こんなことをされたら、どんな巨木でもひとたまりもなく枯れてしまうという。
近頃は大木の伐採もままならず、巨材が品薄で価格が高騰、中には、このようなけしからぬ振る舞いに及ぶ悪質な木材業者も存在するようだ、とのことであった。
似たような事件は各地で起きているという。最近も和歌山県の丹生都比売(にうつひめ)神社のご神木が被害に遭った。ふだん人のいない神社が狙われやすいようだが、山林を所有する寺院でも注意が必要だろう。
今まで元気だった樹木の葉が突然黄変したら、一応は疑ってみる必要がある。