約2年前、お慕いする素敵なマダムからプレゼントされた、星野道夫著『旅をする木』。
いただいてからすぐにページをめくり出したものの、アラスカのあまりにスケールの大きな自然の描写、そこから星野さんが感じ取られている事が、どうも当時の私では理解の枠を超えたのか、馴染めないまま、読み進められないままに本棚にしまわれていた。
今年の夏、初めて北海道へ行き、私が育った都会や、旅してきた少しばかり田舎めいた所とは全く違う、圧倒的な大自然というものを少しは垣間見られた気がした。
ご近所まで何キロ離れているのだろう……というようなペンションに帰る途中に見たエゾシカ、どこまで行けども続く同じような風景。想像を絶する広々とした大地。その大地と大きな空が持つ力に私は魅せられた。
旅から戻り、家でふと名著を紹介した小冊子をめくればそこに、『旅をする木』が。
「あれ、この本、持っているな。そういえばペンションには星野さんのヒグマの写真が飾ってあった。ああいう所に旅をする人にとっては今もなお、星野道夫といえばある種の感慨無しにはいられないほどの人なんだろうなぁ……」と思いつつ再び手に取ってみた。
そこには、星野さんが自然から学んだ、磨き上げられた宝石のようにキラキラと光る真理がちりばめられていて、ストンと私の心に入って来た。まさに、眼から鱗であった。
悟りの方便とは本当に人それぞれなのだという事を、身をもって教えて下さっていた。