松江に趣くならば是非とも足を運びたかった、田部美術館。
奥出雲の山林王、たたら製鉄で栄えた田部家23代当主の長右衛門氏といえば、実業家としてのみならず、政治家、そして近代を代表する数寄者としても必ず名が挙がる方です。
私の場合は、出雲出身の母から、「出雲の人間は長右衛門さん長右衛門さんといって親しみをこめてよんでいる。あそこのお家は代々長右衛門を名乗るのだ」と、同じ話ばかりよく耳にしていた為、それがいつの間にやらしみついて、勝手に親しみを持ち、翁が集めた茶道具を拝見するのを楽しみに足を運んだのでした。
このような人物がこの土地から出るのには、やはり茶人として独自の美意識を後世に残した、松江城主・松平不昧公を忘れてはならないと思います。連綿と受け継がれて来たその土地の気というものが、後世に立派な人物を排出します。
美術館では、不昧公の軸から書き付け、お好みの窯元の茶碗など、山陰の茶の湯の中心がここである証を大いに感じ、楽しませていただいた。
私にとっては、こじんまりとした私設美術館ではあっても、どんな立派な美術館よりもこの地へ趣けば外せない美術館なのでした。