わたしはお墓が好きだ。というより、とても気になる。
お墓といっても、秦の始皇帝陵や明の十三陵などの大規模で歴史に名を残し観光地ともなっている墳墓ではない。有名無名、大小に関わらず、苔むし草だらけの墓塔でありながら、地元の人々に伝承され護られて、今も昔も変わらぬ姿を見せてくれるお墓がよい。
毎年、仕事にキリがつくと、休みを取って中国へ渡り、少しずつお寺巡りをしている。最近の楽しみは、古い禅僧のお墓を見つけることだ。
先日、弊所T局長が中国大理への出張から帰国され、お願いしていた「日本四僧塔」の写真を見せてもらった。
この四僧塔は、明の初めに、政変に巻き込まれて雲南省大理に流され、この地で果てた日本人留学僧の墓と伝えられている。近年中国で注目を集め、保存修復作業が進められ、日本でもこれまでに新聞などで、何度も取り上げられてきた。
とりわけ、昨年公開された中国映画『単騎、千里を走る』(中国名『千里走単騎』)の主演俳優・高倉健氏と張藝謀監督が、撮影後この墓を訪れたことは、中国でも話題になった。
高倉健氏は、六百年もの間、日本人僧侶の墓として伝承し保存してきた大理の人々の温情に感動し、保存修復のために一万ドルの寄附を投じたと報じられた。この四僧塔は、現在、大理の映画村である「大理天龍八部影視城」の中にあり、大理石の基部が新たに作られ、修復されている。
塔の上部には草が生え、きれいに整備された周囲の風景とは正反対に、六百年の風雨に耐え忍んできたであろうありさまをそのまま伝えてくれている。当時の人々は、異国の地で息絶えた僧侶のために、望郷の思いを推し計ってか、日本を眺められるように東向きに建てた。このことを聞くと、当時の大理の人々の心の温かさが伝わってくるが、同時に、それを受け継ぎ、現在まで守りぬいてきた大理の人々に頭の下がる思いである。
「日本四僧塔」と言う伝承から、「四僧」を特定すべく、これまでにいくつかの論文が書かれ、四僧以外にも明初に大理へ行き着いたであろう日本人僧侶の名前が十数名取り上げられている。しかし、まだまだ謎の部分が多く、日中双方による研究が待たれる。
この夏は、中国へ行けそうにないが、いつの日か、大理の風に吹かれながら、この墓塔をぜひとも参拝したい。
いまは、六百年前に彼の地で果てた僧侶たちに想いを馳せながら、写真に向かって、合掌。
(Y.K wrote)