猩々筆記

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昔むかし、中国に猩々という、人間によく似た動物がおった。
猩々は、それはそれはお酒が好物で、そのうえ、人間がはいている靴にめっぽうあこがれていた。
そんな猩々なのだが、その毛はたいそう立派で、人間は、その毛で筆を作るのが自慢であった。
そこで人間は、猩々があらわれそうな所に酒を置いてつかまえようとする。猩々は何人かで山をおりてきて酒をみつける。かしこい方の猩々は、

「これは人間がしかけたワナだ」

と言って注意するが、あまりかしこくない方の猩々たちは、

「ちょっとなめるぐらいならよかんべ」

と、ひとなめしてしまう。そうすると、ひとなめがふたなめ、ふたなめからはみさかいなく呑んでしまい、もうヘベレケになってしまう。

「おお、ここに靴があるぞ」

と、あこがれの靴をはいたのはいいものの、すぐにスッテンコロンと引っ繰り返ってしまい、そのはてには酔いつぶれて寝てしまう。

しめしめと、人間は猩々の毛を刈り取って、最高級品の筆にしてしまうのであるが、猩々の命まではとらない。それは、猩々がなんともにくめなく、可愛らしいからである。
酔いから覚めた猩々は、まるはだかで山に帰って行く。

そして、筆掛けにつるされた猩々が、となりの猩々に言うのだ、

「もう酒は呑まんとこうな」と。

そんな猩々に、私はなりたい。

〈職員による創作物語です〉