「ラオス逍遙 前編」 川辺紀子(禅文化研究所所員)
-季刊『禅文化』234号より-
メコン川が流れるルアンパバーンの町並み。プーシーの丘からの眺望
偉大なるメコン川流域に鎮座する東南アジアの仏教遺跡群。その参拝も、残すはラオスのみとなっていた。
この夏いよいよハノイ(ベトナム)経由の格安航空券を手に入れ、「訪れた誰もが心穏やかになる」とかねてから耳にしていた憧れの地、町全体が世界遺産として登録されているラオスはルアンパバーンを訪ねた。
少し郊外へゆくと段々畑が。緑一色の世界
少しハノイに滞在したこともあってか、なおのことその喧噪とは打って変わって、降り立った古都ののんびりした空気は、ハノイで起きた大小のトラブルで固くなっていた心をたちまち解きほぐしてくれた。
空の上から見てもほとんどが緑に覆われたこの国(国土の約70%が高原や山岳地帯)は、町中でも家々の庭にはフルーツが実り、香草が生え、鶏が闊歩する(鶏のみならず、犬や猫も家畜なのだとか……)。
農業を生業としていない者でも随分と食料自給率が高いように思え、町から少し離れるとのどかな段々畑が広がる。
たかだか6日間滞在するだけのお気楽な旅人の視点、さらに高度経済成長を経て何かしら虚しさの残る日本人にとっては、一種とても豊かであるようにさえ感じてしまう。
市場には新鮮な野菜や果物が所狭しと並ぶ
実際には、周りを他国に取り囲まれ海を使っての交易が不可能なことや、山が多く耕作地が少ないこと、山岳民族の伝統的な焼き畑農業は、深刻な森林破壊を生むと批判を浴び継続が難しくなっていること、観光資源に乏しく(大都会や美しいビーチも無ければ、アンコールワットやボロブドゥールのようなインパクトある遺跡も無い)、インフラの不整備や貧困問題など、諸問題を抱え発展を妨げられているようである(地下資源については、最近注目されてきているようだ)。
しかしながら、こういった事情により、よほど興味のある者以外この国を訪れようとは思わぬわけで、〝ゆったりさ〟という一番といっても過言では無い魅力が支えられているのだから、皮肉なことではある。
山岳民族の村を訪ねる途中。どこまでも続く山並み
私の旅の目的といえば、少数民族(公的には四十九の民族がいるといわれている)の手仕事に出逢うこと、山岳民族の村を訪ねること、そして特に、寺院の参拝、托鉢風景を拝観することである。
が、どうであろう、昼日中の暑い寺院には意外なほど参拝者が少なく、どこへ赴いてもほぼ貸し切り。山岳民族の村へのトレッキングも、旅行者とは全くすれ違うことが無かった。
モン族の家
おそらくはホテルに多く滞在している欧米人などは、昼には郊外にある美しい滝での水浴びや象乗り(かくいう私も。象が滝まで入っていってくれるのでなかなかに面白いものなのです……)、メコン川クルーズ、日本人の苦手な、「ホテルのプールサイドで日がな一日ゆっくり過ごす」ことを楽しみ、夜はモン族のナイトマーケットを見物、お酒を飲んだりして楽しんでいるように見受けられた(根っからの日本人観光客である私は、結局全てを経験。ゆっくりはしないが、プールにだって暑さしのぎに毎日入る。とかく忙しいが、ラオスマジックか、いつもの旅よりはゆったりしていた)。
次回235号では、ルアンパバーン観光のハイライト、旅の目的ともいえる、早朝の托鉢風景についてお伝えしたい。
雨季のため、豊富な水をたたえたクァンシーの滝。遊泳可能な場所もある
モン族のマーケット
象に乗って水の中に入ってゆけるセー滝。遊泳も可能