明けましておめでとうございます。皆さんにはお元気で、新しきよき年をお迎えのことと思います。
今年もまた当研究所のブログをご覧いただく皆様に対して、何らかのお役に立ちたいものと、所員一同思いを新たにしているところです。因みに昨年はわが研究所の設立50周年に当り、いささかの記念式と祝宴を開催しました。
そして今また新しく、更なる半世紀の歩みの緒に就いたばかりであります。今後も皆様方から倍旧のご後援を頂きますよう、衷心よりお願い申し上げる次第であります。
禅宗では年頭の書簡に、「開暦祥瑞、千里同風」などと書くのが習いとなっています。いまこの地球上のどこのお家も、新しい年のカレンダー掛けて、気分を一新されていることでしょう。そう言えば昨年末、台湾の国立師範大学における「世界宗教芸術論壇」に招かれ、「禅芸術の本質と形態」と題する基調講演をさせて貰いましたが、やはりあの国のあちこちには、早々と新しいカレンダーが並んでいました。それを眺めて私は、文字通り千里同風の感を得た次第でした。
さて「未」(ヒツジ)という動物がどうして十二支に一つに入ったのか。辞書によりますと、その昔中国の十二宮に、それぞれの獣を充てたのにもとづくとあります。また「未」に通じる「羊」という字は、この動物が正面を向いているときの象形文字ですが、それの熟語を見ると、どれもあまり目出たいとは言えない意味ばかりですね。
それでも「説文」四上に、「羊は祥なり」とありますから、どうやら羊の字も「祥」とか「善」、或いは「翔」という字になると、ようやくめでたい意に用いられるようになるのは、彼らにとってさいわいと言うべきでしょうか。
『謌林拾葉集』五二一によると、神や皇帝の備え物となるため屠殺場へ連れていかれる羊は、自分が一歩々々と死に近づいていくことを知らないはかなさを、世間の無常迅速なるに譬えて、「羊歩」と言うとあります。そうなると羊年の正月こそ、まさに一休さんよろしく「冥土の旅の一里塚」というべきかも知れません。お互いに一歩一歩、脚下を看て進もうではありませんか。
禅文化研究所長 西村惠信