ワザとこころ 能の伝承 -京都観世会館-

成人の日、京都観世会館にて開催されました「ワザとこころ 能の伝承~稽古と修行と教育」という大変興味深いシンポジウムに参加しました。

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これは、京都大学こころの未来研究センターとの共同企画で、センターの鎌田東二先生を進行役に、なんと観世流宗家・観世清河寿氏と、さらにご子息の三郎太さんを迎えて、まさに題名にあるごとく、父から息子へと連綿と受け継がれてきた能の稽古や修行、教育について、空気を読まない(とご自身や同僚の先生方が仰っておられました)鎌田先生が忌憚なく質問を投げかけられ、またそれに宗家と三郎太さんが忌憚なく答えられるという、前代未聞、能ファンにとってはありえないような興味深すぎる会なのでした。

プログラムは下記のとおり。

■開会挨拶:吉川左紀子(京都大学こころの未来研究センター長)
■趣旨説明:鎌田東二(京都大学こころの未来研究センター教授・宗教哲学・民俗学)
■第1部 :能の稽古の伝承のトーク
観世清河寿(観世流二十六世宗家)、観世三郎太、鎌田東二(司会)
■実演  :舞囃子
観世清河寿、観世三郎太
■休憩
■第2部 :シンポジウム「能の伝承~稽古と修行と教育」
観世清河寿、観世三郎太、西平直(京都大学教育学研究科教授・教育人間学)、
河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター教授・臨床心理学)、鎌田東二(司会) 

なんと、実演まで。
舞囃子というと、面や装束をつけず、紋服袴のままで、地謡と囃子を従えて舞うのですが(今回囃子方はいませんでした)、曲中の最も盛り上がる部分を抜き出して拝見するような感じ。今回は「とうとうたらり~たらりら~」の始まりで有名な翁を。
1月ですから、国家安泰、鎮魂と未来への再生を願うこの舞を拝見できた事は特に有難い事でした。

また、宗家の公演は東京が主ですので、拝見するのは大学生の頃以来、約15年ぶりでしょうか。学生の頃に感じたのとは全く違い、宗家が変わられたのか、私が変わったのか、いやどちらもなのでしょうが、月日を経てまた出会うとは、なんとも良いものだなぁ・・・としみじみ思いつつこの会に感謝。
朗々たるお声にしばし違う世界へと誘われました。

150119-2.jpg我々一般人からすると、観阿弥・世阿弥の時代から続く家に生まれた重みという事にすぐに思いが至るものですが、ご子息の三郎太さんはそれはもう、生まれた時からそこに居るわけなのですからごく自然の平常心。なんのてらいも無い中学三年生。清々しいものでした。
宗家も仰っていましたが、「近頃お客様の方が違ってきている。育てる眼というものどうか持っていただきたい」と。

京都のとある能楽堂で、初めて舞台に立つ家元のご子息を観て、おばあさん二人が「いやぁ、大きうなりはったなぁ若も」と孫でも観るかのごとく愛しげに見守っていらした姿を思い出します。

現代を生きる我々は、スピードを常に求められ、早い成長、完璧さを求めがちですが、成熟してゆく過程というものを、その中に潜む良さを発見しつつ、心の余裕を持ちつつ楽しめる人でありたいと思いました。

鎌田先生を筆頭に、西先生、河合先生それぞれの個性にもいたく惹かれたこの会。
始まりと終わりには、鎌田先生の法螺貝の音で会場も清められ・・・(神道がご専門です)。
こころの未来研究…これは、いつか禅とのシンポジウムも開催されねばならぬのでは?と一人妄想しています。

*翁発祥の地、奈良豆比古神社の記事はこちら。能役者ではない、地元の方が継承している翁の舞は、現在のお能のように洗練されてはいませんが、それがまたその起源を思わせ感動したものでした。