私ごとですが、大親友が二冊目となる料理本を出版しましたので、お祝いも兼ねて記念会を主催してみました。
彼女のところ(窯元です)で作っている土鍋を使った料理を紹介する本ですので、皆さまを料理でもてなし、さらに彼女が自分の為に築いた新しい穴窯で作った作品などを展示させていただきました。
京都の町家(というよりも数寄屋建築の家ですね)を貸し切り、何も無かったその空間に、彼女の家から持ってきてもらった軸を床に飾り、彼女の作った水指に山から採ってきた枝を生け、敷板には春日大社の古材を用いました。
この岸野魯直先生(山田無文老師について、3年間祥福僧堂で修行されていました)の水墨画、“笠置渓谷”の軸を掛けていて本紙が現れました時、まさに新緑の笠置渓谷、ご神体とされる笠置山、戦火により今や光背を残すのみの笠置寺の磨崖仏がぶわっと眼前に立ち現れる心地がし、いたく感動してしまいました。
摩訶不思議水墨画の世界。意識したかしないかのほんの一瞬の出来事です。
本来、軸の本紙(絵や字がある部分)に花や枝がかかる事は御法度ですが、新緑の笠置渓谷を思うとそんな事もどこへやら、写真のように生けていました。
私の中では、どこまでがお軸の中の緑、どこからがこちら側で実際に生けている緑なのかわからなくなっているという面白い体験でした。
いつぞや、敬愛する福森雅武先生が、「その場の空気が変わるくらいの花でなくてはいけないんだね。概念や形から入るんじゃないんです」と仰っていましたが、少しは場の気も変わりましたでしょうか。「本紙に掛かってはいけない」などと頭で考えていたら、このようには生けられなかったように思います。
今回このような事をしてみて、軸や花、器などによって、空間が生気を帯びてゆく様を体験し、誠に面白いものだなと感動しました。
家や部屋ですら、置いている物の気によってどんどんと表情を変えて生き生きとしてくるのですから、人間が日々、自身の身を置く場の大切さといえば言うまでもなく。
修行僧の為に夢窓国師が作られた庭、掃き清められた僧堂の清々しさを思い出すのでした。