韓国 -大韓仏教総本山曹渓寺-

曹渓寺_本堂

朝鮮王朝(李氏朝鮮)では儒学が尊重された一方、仏教は衰退の一途を辿った。朱子学を自己の行動規範とする「士大夫」の目には、仏教は「婦女子」の信じる蒙昧な宗教と映ったのである。
王朝末期以降、紆余曲折を経ながらも仏教は復興し、多くの宗派が成立する。1941年に韓国仏教の最大宗派である曹渓宗が成立した際、総本山となったのがソウルの曹渓寺(チョゲサ)である。
ビルに取り囲まれた境内はそんなに広くはない。町なかのお寺、といった風情である。だが、大雄殿(本堂)の内部で、熱心に五体投地の祈りを捧げる信者たちの熱気には、圧倒的なものがあった。そのほとんどは女性である。

仏舎利塔

日本にも熱心な善男善女はいる。しかし、お国柄とは言え、全身で信仰心を表現するその宗教的熱情は、日本とは比すべくもない。俊乗房重源が、九条兼実に語った言葉を思い出した。
「かの国(宋)の人、心は信心をもって先となす。あるいは道、あるいは俗の徒党五百人、もしくは千人、かくのごとく同時に精進を始め、猛利の浄信を起こし、三歩に一礼をなして参詣す。……わが朝(日本)の人、かしこに比するに、あえてこれに及ぶべき者なし。悲しむべし、悲しむべし」(『玉葉』寿永二年正月二十四日条)
宋国の信者の熱心さを目のあたりにした重源の、いつわらざる感想であろう。

本堂への扉

突然、スーツ姿の若者が近寄ってきて盛んに何かを話しかける。言葉が全くわからないが、どうも一緒に五体投地をしようと勧めているようだ。かくしてわれわれも、韓国の信者と同じように、大雄殿前の庭上で三拝の礼を捧げたのであった。
しかし、あの若者は一体、何者だったのだろう…