毎回、日本語の美しさを感じる展観名が楽しみな北村美術館。
山林王の異名を持つ北村謹次郎翁の蒐集した茶道具を、毎回テーマに沿った茶事形式で拝見できる美術館です。
「初しぐれ」
今回は、和漢朗詠集の冬の巻頭を飾る、「時雨ぞ冬のはじめなりける」をテーマに、親しい茶友と気軽な雰囲気でお茶を楽しもう・・・という日の道具組だとか。
「気軽な雰囲気」とありますが、どれもこれも私どもから見るとため息の出る道具ばかりです。もちろん北村コレクションの中だと、そうなるのでしょうが・・・。それぞれのお茶の道がありますね。
展観を見る前にいつも荷物を置いておく椅子があるのですが、ふと楽しみにしているお床(展示目録には載らない、北村美術館所蔵のお軸がそっと掛けてある床があるのです)を見ると、
秋来ても 寂しうはなし 菊の庭
堀内宗心宗匠の色紙が・・・。ぐっと来てしまいました。
秋が来てなんとなく孤独を感じ、なんとなくものがなしいような雰囲気の中、まるで宗匠が微笑まれているお姿がそこにあるようで、 「あぁ、そういう事か・・・」と妙に腹にすとんと落ちて納得したものです。
弊所発刊 『歩々清風』堀内宗心著より 撮影・柴田明蘭
どうしても自身の内と向き合わざるをえないような季節ですが、四季がある日本に住んでいるのですから、それに添うのも良いものですね。
旅立たれてなお、私たちに気づきと教えを下さる宗匠。5月に天寿を全うされ、北村謹次郎翁とも縁の深かった宗匠の展示コーナーを特別に設け、そのよすがを偲びたい・・・との美術館のはからいでした。
以前拝見した事がありましたが、宗匠が翁に、袱紗のたたみ方について絵に描いてお教えしたお手紙をお軸に仕立てたものがあるのですが、それが再度飾られていました。
あぁ・・・なんとも宗匠らしい細やかなお心遣いだなぁ・・・と、しみじみ一人宗匠を偲び、やはり茶の道はまぎれもなく人生の友であるな・・・と確信するのでした。