逸話(2)九州博多の仙厓さん―その2

今回は良寛さんをご紹介しようと思ったのですが、やっぱり仙厓さんは、逸話の別格者。
今回もよりすぐりの2話をどうぞ。

【魚骨問答】
ある日、寺の世話をしている某が、聖福寺の本堂下を掘っていると、生々しい鯛の骨が現われた。某は、さっそくこの骨を持って仙厓和尚の前に行き、
「和尚さん、和尚さん。本堂の下からこんな骨が出ました。この寺に、こんな魚の骨があるようでは、困ったもんですな」
すると仙厓和尚、
「そうか、そうか。どうも今の小僧どもは弱くなったわい。わしの若い時分には骨も残さなかったもんじゃがのう」と。

聞くところによれば、あの厳しい僧堂でも、布施をされたものは、魚であろうが、お肉であろうが、ありがたく頂戴しなければいけないそうです。実は雲水さん、嬉しいのかな? でも布施する人も、摂心中などは駄目で、時と場合を選ばなければいけないようです。それではもう1話。

160826.jpg【忘れぬために礼いわぬ】
仙厓和尚は、人に礼を言わない人であった。そしてその言い草が面白い。
「礼を言うと、折角受けた恩が、それきり消えるような心地がするから、いつまでも、恩を有り難く思っておるために、礼を言わないのだ」と。

仙厓さんは、人から布施を受けても、また何か世話をしてもらっても、ただ黙って低頭するだけで、別にお礼を言われなかったそうです。お礼を言われないことについて、こんな逸話があります。

ある雨の日、仙厓さんが聖福寺に近い町中で、下駄の鼻緒(はなお)が切れて困っておられると、近所の豆腐屋の女房が見付けて気の毒に思い、早速、仙厓さんのところへ行って鼻緒を立て替えてあげた。しかし仙厓さんは、ちっとも礼を言われず、ただ黙って低頭して帰られた。その後、女房が仙厓さんに会っても、やっぱり礼を言われないからムッとした。けしからぬ坊主だと思った。女房、某に向かい、
「仙厓さんは、えらいお方だと皆が言うけれども、ちっともえらくはない。雨の日に仙厓さんが下駄の鼻緒を切って困っておられるから、私が鼻緒を立て替えてしんぜたのに、一言も礼を言われない。あんな礼儀知らずの坊主ったらありはしない」
と、プリプリと怒っている。某はお寺に行ったついでに仙厓さんにこの事を語ると、
「礼を言やあ、それですむのかい。わしはもう一生忘れんつもりじゃったに」と。

仙厓さんの深い心も分かる気はしますが、やっぱり、「ありがとう」と言おうよ。その言葉ひとつで救われたり、希望が持てたりしますから。
次回は、良寛さんの登場です。お楽しみに。