いよいよ良寛さんです。この人には何の解説もいりません。
まずは、良寛さんの嗜好を紹介する2話です。
【酒は割勘(わりかん)】
良寛和尚は酒を愛された。しかし、度を越して酔いつぶれるということはなかった。だれかれと言わず、お金を出し合い、割勘で飲まれた。そして、
「あんたも一杯、わしも一杯」
と、誰かが得をしたり、損をしたりすることがないように、量も平等にしておられた。
【煙草なら後から来る】
良寛和尚は無頓着な性格で、物に執着するということがなかった。和尚は煙草(たばこ)が大の好物であったが、その煙草入れも、いくら人からもらっても、すぐに失ってしまった。ある人が心配して、六尺もある紐で煙草入れを帯に結んでやった。
そんなある日、一人の老婆が、和尚に煙草を進めると、和尚は、
「煙草なら後から来る」
と言った。
和尚の言葉を解しかねた老婆が、その後ろを見ると、和尚は、煙草入れを地面に引きずりながら歩いていた。
では、子供と遊ぶ無邪気な和尚の逸話を2話。
【かくれんぼうで一夜を明かす】
日も暮れやすい秋の頃、良寛和尚は、例のごとく子供達とかくれんぼうをした。
和尚は、刈り入れが終わって高く積まれた藁ぐまの中に隠れたが、夕暮れになり、子供達は、和尚を一人残して帰ってしまった。
翌朝早く、近隣の農夫が、藁を抜こうとそこへ行くと、奥から和尚が出て来た。驚いた農夫は、
「おや、良寛さま」
と叫んだ。すると和尚、
「黙れ、子供に見つかるではないか」と。
【天上大風の凧(たこ)】
良寛和尚が、ある宿場を托鉢(たくはつ)された時のことである。
一枚の紙を持った子供が、和尚のそばに来て、
「良寛さま、お願いだから、これに字を書いておくれ」
と頼んだ。そこで、和尚が、
「何に使うのだ」
と尋ねると、その子供は、
「凧(たこ)を作って遊ぶんだよ。だから、いい風が吹くように、“天上大風”と書いておくれ」
と言う。和尚は、すぐに“天上大風”の四字を大書して与えた。
この“天上大風”の四字は、良寛さんの代表的な書として、今に残っています。
*『良寛和尚逸話選』より