少し不思議な出来事

山や野にある寺院の御住職は経験ずみでしょうが、天井裏に小動物が棲み着くことがあります。小生の山寺も例外ではありません。夜や明け方になると、天井裏では大運動会が始まります。

数年前、雨の降る日、本堂の外で子猫の泣き声のようなものがするので見てみると、何かの動物の子供が泣いています。小生にはその動物の名前が分かりません。鼻筋が白かったのでハクビシンかも知れません。とてもカワイイものです。小生と目が合っても逃げようとはしません。子供の頭上、天井裏への入り口なのか、そこに親がいます。子供をじっと見ているだけで助けようとはしません。子供は雨の中、天井裏への壁か柱かを登りそこねたのでしょう。小生はそのままにして本堂へ入りました。しばらくしてそこへ戻ると、子供の姿はありませんでしたので、無事に天井裏へ登れたのでしょう。

運動会で収まっていてくれれば、小動物でも山寺の住人ですので、共生すればよいのですが、ついに最近、天井からオシッコが落ちて来るようになりました。困った小生は、駆除の業者をさがそうと思っていました。

そんなある日の朝、檀家さんが寺に来られて、「下の道で動物が二匹、車にひかれて死んでいるけど、観音堂のわきの土地に埋めていいですか」と言われます。小生は、「かわいそうやね、ちゃんと埋めてあげて下さい」と答えました。小動物が車にひかれるのは、山間部の道路ではよくあることです。

不思議なことですが、その日から我が山寺の運動会はピタリと終わり、今日まで天井裏は音ひとつしません。ひょっとしたら、車にひかれて、観音堂の土地に埋められた、あの二匹の動物は、我が山寺の天井裏の住人で、寺への帰り道だったかも知れません。そもそも、小動物が二匹いっぺんに車にひかれることが、とても珍しいことなのだそうです。親子だったのか、夫婦だったのか……

天井裏の住人がいなくなり、現実的には嬉しいことですが、不殺生戒を守らなければならない僧侶としては複雑な気持ちです。寺の境内地に埋めてもらったことが、せめてもの救いです。

小生が住む自治体のルールでは、アライグマなどの外来種を捕獲した場合は殺処分が許されていますが、タヌキなどの日本古来の動物は、たとえ畑のワナにかかっても、山や野に帰さなければなりません。

山寺で起こった些細な出来事でしたが、皆さん、ペットはその命が終わるまで見守り見送って下さい。くれぐれもお願いします。