逸話(5)越後の良寛さん―その3

 

161201.jpg近頃、囲碁の名人とAIコンピューターが勝負をして、やれコンピューターが勝った、いや、やはり名人が勝ったと、かまびすしいことですが、良寛さんにも、囲碁にまつわるこんなお話が二つ。

【和尚の碁打ち】
良寛和尚は、囲碁が好きで、負ければ機嫌が悪かった。
いつの年か、地蔵堂の庄屋の富取(とみとり)の家へ行き、碁を打ったことがあった。和尚はおおいに勝った。負けた富取は、怒ったふりをして、
「人の家に来た客が、その家の主人に勝つとは、無礼も甚だしい。以後、この家に来ることはならん」
と言った。
和尚は、その剣幕に驚き恐れ、顔色も青ざめ、富取家を出て、わたしの家へやって来られた。思案顔であった。わたしの祖父が、そのわけを聞くと、和尚は、
「地蔵堂の富取に勘当された」
と言われた。祖父は、
「わたしが良寛さまのために取り成ししましょう」
と言って、翌日、和尚と一緒に地蔵堂へ行き、前日の無礼を詫びた。和尚は、家の門口に立ったままで、中へ入ろうとはされなかった。事が終わってから和尚を呼ぶと、そこで初めて入って来られた。そして、またもや碁打ちにとりかかったという。
この話は、わたしがまだ生まれる前のことで、今は亡き清伝寺の観国和尚が話していたことである。

【賭け碁】
良寛和尚は、お金を賭けて碁を打つこともあった。多くの人は、わざと負けていた。そこで、和尚は、
「銭がたまってやり場がない」
とか、
「人は銭がないのを憂えるが、わしは銭が多すぎるのに苦しむ」
などと言っておられた。

『良寛和尚逸話選』(禅文化研究所)より