デジタルアーカイブス調査「円福寺」

 

0522_1.jpg前回初めて経験した悉皆調査の数日後、円福寺(京都府八幡市)での調査にも同行させていただきました。自分なりの所感を記します。

0522_2.jpg作業場の「伏虎窟御殿」は、円福寺14世・見性宗般老師に帰依された、有栖川宮威仁親王からの下賜という瀟洒な建物です。今回調査の対象となる寺宝は写真の約30点。さて、まずはこの数についてどのような印象を持たれますか?多い、それとも少ない?

0522_3.jpg結論は、少なくないと思います。「撮影」「調書作成」「梱包」――書いてしまえば一言ですが、どの作業も繊細なため、やはり時間がかかりますね。実際は、後半かなりペースアップしても文書類は次回に持ち越しとなりました(掛け物とは異なる設備が必要という理由もあります)。中には触れるのを躊躇してしまうほど、傷みが見られるものもありました。それらの状態も細かく記録。緻密な仕事です。

0522_4.jpg時間を要するという件について更に誤解を恐れず書きますが、なにしろ作品の素性がわからない状態です。もちろん署名と落款があり、箱書、極札、書き付けなども存在するのですが、良い意味でこれらを疑ってもみる。専門家の眼によって情報が付加されていくうち、先ほどまで整理番号のみで認識していた書画が、どんどん個性を持った存在に思えてくるのは不思議な感覚でした。また、個人的なことでは崩し字の読み方(類推方法)が大変勉強になりましたし、さまざまな知識についても、いまの自分の足りなさを嘆くのではなくコツコツ蓄えを増やし良い仕事に繋げたい、と前向きな気持ちに。現場の活気から、良い気をいただけたようです。

0522_5.jpgそもそもこの調査のきっかけは、アーカイブス事業を立ち上げた際、弊所から老師にご相談したところ、ご縁をいただいたものだそう。老師のお話しぶりは穏やかですが、これらの寺宝を後世に伝えていくのだという、強い責任感が伝わってきました。お寺に携わった先人の想いに、作品を通じ今でも触れることができる。素晴らしいことだと思います。これらは物としての価値を持つだけでなく、心の遺産なのだなと。調査はまだまだ続くようですが、次世代に繋がる作業の現場に立ち会え、心に残る一日でした。ありがとうございました。