朝鮮王朝(李氏朝鮮)歴代の国王とその妃を祀るための祖廟。朱塗りの柱が林立する長大な正殿の南に石敷きの前庭が広がる。厳格な儒教様式で建てられており、質朴そのものの空間だ。余計な装飾は一切ない。おまけに正殿の背面は磚(レンガ)積みであった。
細部の繊細な表情を好む日本人にとっては物足りないかも知れない。かくいう私も、その無愛想な表情を見て、不謹慎だが、「倉庫のようだ」と思ってしまった次第である。
しかし、繊弱に流れがちな、いわゆる「日本の美」とは異なる確かさがそこにはある。個人原理・家族原理であるとともに社会原理・国家原理でもあり、はては宇宙原理でもあるという儒教の厳粛さ、荘重さを教えてくれる実に堂々とした建造物であった。毎年五月には、礼楽にのっとった宗廟祭祀がくりひろげられるという。