西郷どんの逸話 その2

さて、大河ドラマの「西郷どん」にちなんで西郷隆盛(号は南洲・1827~1877)の逸話を前回より続けます。

◇無三和尚に参禅する
青年西郷隆盛は、友人吉井友実とともに、福昌寺の無三和尚について禅を学んでいた。無三は二人が大器であるのを見抜いて、痛棒熱喝、つねに悪辣の手段で接していた。ある時、西郷は吉井と相談して言った。
「老師の室内に入ると、いつもやにわに痛棒を食らって、逃げようにも逃げ場もごわさん。そこで、今日は庭先で参禅し、老師が如意棒を手にとられたら一目散に逃げ出そうじゃごわせんか」
そう示し合わせて、二人は行って庭先に立って参禅をお願いしたところ、無三は立ちどころにその魂胆を見抜き、
「この生意気者めが!」
と大喝一声、雷のような大音声を発した。二人は平身低頭、わびを入れたのであった。
後に西郷は吉井と会って懐旧談をするたびに、必ずこの話をしたという。
*吉井友実=1828~1891。薩摩藩出身の志士・政治家。
『心にとどく禅のはなし』(禅文化研究所刊)より

 

◇西郷の坐禅石
西郷は十七歳から二十八歳までの前後十年間、毎日、無三和尚に参じ、一日も怠ることがなかったという。大山巌は回顧談の中で、
「鹿児島における予の家は西郷の家に近接していたので、予は六、七歳のころから西郷に従い、読書や習字を習った。そのころ西郷は禅学を学んでいた。予が朝早くその家にいたると、西郷はすでに草牟田の誓光寺の住職無三上人のもとに赴き、講習を終わって帰宅しているのをつねとした」
といっている。西郷らが坐禅を組んだ坐禅石は現在も残っているという。
『禅門逸話選 中』(禅文化研究所刊)より