近鉄平岡駅(大阪府)で下車し、近鉄生駒駅(奈良県)まで歩いてみた。行く手に立ちはだかるものは、大阪と奈良を隔てる生駒山地である。大阪側からの登りは傾斜も急でかなりきついが、奈良側は比較的なだらかである。
県境の暗(くらがり)峠を越える。かつては奈良と大阪を結ぶ奈良街道が通る交通の要衝であった。現在でも308号線というれっきとした国道なのだが、その狭隘さゆえ自動車の行き来はほとんどなく、ハイキングコースとして人気が高い。
峠に立つと、昼なお暗い「くらがり」峠というイメージからは程遠く、奈良方面への展望は良好であった。ただ、目の前の信貴・生駒スカイラインが展望を大きく阻害しているのが、少々残念ではあったが。
峠付近には、風情のある石畳や道標がいまも残り、峠につきものの茶店(喫茶店?)もある。かつては今よりよほど多くの人馬が行き交い、この風景を眺めながら、束の間の休憩を取ったことだろう。
峠道を下る途中で、自転車を押しながら上って行く男子中学生たちとすれ違った。
「この峠越えたらな、戎橋行ってな…」
などと話しているのには笑ってしまった。山を越えたら、すぐに大阪の繁華街だと勘違いしているらしい。彼らにしてみれば、この峠越えも、ちょっとした冒険なのだ。
峠の向こうは、あこがれと恐れのないまぜとなった異世界であるというのは、今も昔も変らないのだな、などと考えながら歩いた。