永源寺を訪ねて

新緑の頃の永源寺山門

禅僧のことばのDVDシリーズ収録も、第一弾の予定は、残すところ大本山永源寺管長、篠原大雄老師だけとなった。
先日、その事前打ち合わせの為に、撮影監督の映像工房サンガの児玉氏とともに、冬の永源寺を訪れた。
永源寺派の本山である、瑞石山永源寺は滋賀県東近江市、名神高速八日市インターから車で約10分の山間にある。新緑の季節、あるいは紅葉の季節には、とても多くの拝観客が来られるこの永源寺ではあるが、この冬の時期には、附近の民間駐車場や土産物屋も閉ざされており、境内には文字通り人っ子一人見えない。
管長老師との約束の時間より少々早く到着したので、誰もいない山内を散策した。何度も永源寺には来たことがある私だが、この季節、そして人のいない境内を歩くのは初めてのことだった。
やはり禅寺はこうでないと……、きれいに掃き清められている上に、誰もいない深閑とした冷たい空気。
開山の寂室元光禅師は、この山紫水明な仙境をことのほか愛されたというのがわかるようである。
何度か兵火にかかり、伽藍は焼失して再建されているが、江戸期に建立された山門は美しく、文化財に指定されている。


さて、時間になったので僧堂の庫裡の一室に入れていただき、老師との打ち合わせをさせていただいた。とはいうものの、共通の話題に花がさき、終始にこやかにお話をされるので、本題がなかなか進まなかった。
老師は昨年、食道癌になられたものの、抗癌剤が見事に効いて今は癌も消えてしまったとお聞きしている。その辺りのことも撮影のときにお話いただこうと思っているが、堅苦しさを感じさせない話っぷりに、その老師のお人柄に引き込まれる気がして、いつまでも話していたい気分であった。
縁先に見えるつくばいには、野鳥が水浴びにやってくるのも見えた。「狸が庭の石の上で昼寝していることもあるよ」とおっしゃったが、「あれこそ狸寝入りかもしれん」というお言葉に大笑いしてしまった次第である。そして、後日の撮影の日取りをお約束して失礼した。
余談だが、その後、宗務本所まで一人の雲水が案内してくれた。実は彼は私の修行時代の仲間のご子息である。どこの僧堂がいいかと相談を受けたので、私がこの永源寺僧堂を紹介したという縁がある。元気で明るい表情であったので、がんばってやっているようだと安心した次第。
*写真は新緑が眩しい5月頃の永源寺。