うかつな一言 -山寺のある一日-

山寺のある一日

8月31日、少々事情があって、師匠の寺で檀務を勤めた。
お経も終わり、自坊に戻ろうとしていると、玄関先に来客があった。「お墓をお世話になっております、××です」と、本尊さんに、お供えのお菓子をいただいた。私には、初めてのお顔であった。
「ありがとうございます」とお礼を言って、お菓子を本尊さんにお供えして、駐車場の車に行くと、先ほどの××さんが、奥さんと女の子との三人で、お墓に登っていかれるのが見えた。
女の子は、小学校の2、3年ぐらいで、お父さんの背中におんぶされていた。
私は、すぐに、「自分で歩きなさあーーい」と、大きく声をかけた。
すると、両親は、にっこりと笑って、「この子、歩けないんです」と答えられた。
私はびっくりした。そして、女の子の姿をよくみると、確かに左足が伸びたままであった。「すみません、知らないこととはいえ、失礼なことを言いました」と、私は頭を下げ、逃げ出すように車に乗りこんでしまった。
うかつにも、取り返しのつかないことをしてしまった。私は、自己嫌悪でいっぱいだった。ただ、救われたのは、御両親の笑顔であった。
こうして、私の8月の法務は終わった。我ながら、情けない8月最後の一日であった。