作家の故水上勉氏が故郷に設立した若州一滴文庫は、小浜湾から少し山間部に入ったのどかな田園が広がる地にある。1985年に開館し、一時期閉館に追い込まれていたが、現在はNPO法人化され、水上氏の蔵書や水上作品に使用された挿画の原画などが常設されている。
庄屋を思わせる長屋門を入って正面にある本館には、蔵書のうち2万冊が開架されており、車椅子を利用できるスロープを使い各展示室を移動できるようになっている。
特別展では水上氏と親交のあった須田剋太氏と水上作品の装丁と挿画を手がけた生沢朗氏の作品が展示されていた。
本館に隣接する竹人形館は、水上氏主宰の若州人形座の竹人形展示場として建築されたもので、水上作品に登場する人物の竹人形が作品ごとに展示されている。人形の頭(かしら)は250ほどあるそうだが、一つ一つ顔の作りと表情が異なり、上手く作れるものだと感心する。その人形座の定期公演が行われるくるま椅子劇場は、舞台と客席とが一体となった造りで、舞台背後のガラス張となった大きな開口部からは竹林が見え、実に幽玄な雰囲気を醸し出している。
若狭は、大拙承演、儀山善来、越渓守謙、釈宗演といった幕末から明治にかけて日本禅宗史に大きな足跡を残した禅僧たちの生誕の地である。水上氏の記した設立趣意書には文庫名の由来と共に、これら先達者の行跡を掘り起こし、後世に伝えるという文庫の使命が述べられている。それと共に、本を読むことができなかった自分の幼少時代を振り返り、この地の子どもたちに文庫を開放し、より多くの書籍に触れてもらういたいという願いも記されている。
企画展では、在住の画家、渡辺淳氏の指導により地元の子どもたちが描いた絵も展示されてあった。どれもが生き生きとした描写で、子どもたちの素直な心を反映したものばかりである。
故郷をこよなく愛した水上氏の思いが込められた文庫は、一作家の作品を展示するだけでなく、地域の活動の発信の場でもある。