創業天保年間、代々御室御所に仕えた植木職人。現当主で16代目を数える嵯峨の桜守、佐野藤右衛門氏のご自邸へ、夜桜を見にでかけました。
ちょうど桜の花の良い時期、たくさんの種類の見事な桜の木が植わっているご自邸のお庭を、一般に無料で開放され、夜にはかがり火も焚かれライトアップされます。
青いビニールシートに、花より団子の団体が陣取り、桜が泣いているようにしか見えないライトアップには興醒めしてしまう為、夜桜見物はあまり好きでは無かった私も、ここは無論別格。
そういった花見の客は来ない為、静かに夜桜を楽しめます。
ほぅっ…とため息をつくほどに魅せられてしまいました。
傘のようにひろがった見事な枝ぶりに、ありったけの1年の力をふりしぼって見事に咲かせた満開の花。それが妖しいまでに美しく、ライトアップされるとさらに幽玄の世界へと誘われるようで、まるでお能の舞台を見ているかのごとくでした。
「桜の花は、桜の木にとって一年の最後の集大成! 1年のすべてがこの花に出るんや。花が終わってまた新たに1年が始まる」とは16代藤右衛門氏のお言葉。
何日かの花のために1年を通して桜を守る桜守。見事な桜の花の裏にあるその愛情と細やかな配慮、地道な毎日の手入れにどれだけの人が思いをはせるのか…と思った夜桜見物でした。
と、見物中、元気に歩き回っていらっしゃる当代を発見! たくさんのお弟子さんに囲まれていらっしゃいました。
女性のお弟子さんもいらっしゃいましたよ!
表舞台で目立つわけでもない植木職人の地道な仕事と厳しい修行。
庭を作るのであれば、知識や腕のみならず、持って生まれた感性も必要でしょうし、また、日本文化に関するあらゆる教養も必要で、勉強する事は山ほどあるのでしょう。
このお弟子さんの中から、将来名匠と謳われるような造園家が生まれるのかな…と、少しわくわくする思いで師匠と弟子の姿を見ていたのでした。
桜のカーテンの向こうにはお月様が。