画 西村惠信
明けましておめでとうございます。
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さて、禅語に「虎は是れ山獣の君」というのがあります。虎こそは獣の中の筆頭だ、ということでしょう。中国で禅宗の盛んであった唐の時代、禅僧たちは深山幽谷に入って修行生活を送っていました。そこでは彼らの周りに、いつも虎たちが集まってきて寝そべっていたと伝えられています。
禅僧たちはやがて、自分たちの間で禅機(悟りから出るはたらき)の優れた人を「大蟲」(だいちゅう)と呼んで畏れるようになりましたが、大蟲とは他ならぬ「虎」のことであったのです。このように虎と禅僧たちは、お互いに親しく共生していたのでした。
その頃、仰山慧寂(きょうざん・えじゃく)という人が、南泉普願(なんせん・ふがん)の弟子である長沙景岑(ちょうさ・けいしん)に向かって、「あなたは禅僧としてどんなはたらきを示されるか」と言いますと、長沙は何も言わずに飛びかかってきました。仰山が驚いて、「あなたはまるで大蟲のようだ」と言ったことから、時の人は長沙景岑のことを「岑大蟲」(しんだいちゅう)と呼ぶようになった、と『伝灯録』などに記されています。
今年はその寅の年ですから、まさに禅宗の当たり年。現代のような混迷の時代にこそ、猛虎のようなはたらきを持つ指導者が一日も早く現われて欲しいものですね。禅語に、「虎は嘯く五更の前」というのがあります。虎は決まって夜明け前に吼えるらしいのです。今年の元朝にはひとつお互いに、この濁世を震撼させるような猛虎の一声に、耳を傾けようではありませんか。
禅文化研究所 所長 西村惠信