“THIS IS IT” マイケル・ジャクソンとアラン・ワッツ


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今やロードショーは終わり、一部で追加上演となってしまっている映画だが、やっと、マイケル・ジャクソンの “THIS IS IT” を観ることができた。
彼の音楽はラジオなどでよく耳にはしていたが、実のところ、CDを買ったりというほどのファンでもなかった。
しかし、予定されていた久しぶりの大会場での公演の目前に、あまりにも突然で謎めいた死をとげたことがニュースで報道され、そして、公演のリハーサル模様の映像を収めた “THIS IS IT” というドキュメンタリー映画が上映されると聞いて、是非観てみたいと思っていたのだ。
映画には予想以上にいたく感動した。ドキュメンタリーなのでとてもリアリティがあり、彼の音楽性がコンサートに向けてどうやって実現されていくのかが、事細かに記録されていたため、私が今まで感じていたマイケル・ジャクソンに対するイメージが一新したのだ。
彼はセールスのおかげでものすごい資産家となり、湯水のようにお金を使い、ネバーランドという夢の国のような家を持ち、整形を繰り返していたアーティストであったから、どちらかというと、遠い世界の人で共感するようなことがなかったのだ。
しかし、映画でみたマイケルは、自分の意志をとても繊細に丁寧にスタッフに伝え、そしてスタッフに気を配り、いいものを作り上げていくという真摯な姿勢であって、とてもすばらしいと思った。
そして、彼が訴えたかったのは、「今すぐ地球を救わなければ」ということだった。エンディングロールが終わって後に、さらにそのメッセージが繰り返されていた。人類愛に満ちた人だったのだと思った。


彼は昨年七月に行なわれるはずだった久しぶりの公演開催を発表したときに言った言葉が、映画のタイトルにもなった、”THIS IS IT” であったのだが、ではその意味はなんだったのだろうか。
映画では、発表時のメッセージの字幕に、「これは、ファイナル・カーテン・コールだ」と訳されていたように思った。
また、同名のアルバムの日本語訳には「これは本当だ」と訳されているらしい。
私は、「ここが一番大事なところだ!」というニュアンスに受け取ったのだが……。
ところで、1960年代に、禅や仏教思想を西洋にもたらしたヒッピー哲学のさきがけといってよい学者、アラン・ワッツ(Alan Watts)という人がいた。この人の書いた本に、”THIS IS IT” というものがあると聞いた。翻訳本もないし、原書も読んだわけではないが、これはきっと禅的な言葉であるに違いない。
彼は鈴木大拙博士とも深い関わりのあった人だ。鈴木大拙写真集『相貌と風貌』(禅文化研究所刊)にも、ワッツとの写真が2点収められている。上田閑照博士は、その写真の紹介文に、「ワッツが21歳の時に、世界信仰会議での鈴木大拙博士の講演を聞いて、Zenに深い関心を寄せるようになった」と記されている。
さて、マイケル・ジャクソンの信奉した宗教は知らないが、あるいは、この本を知っていて、この言葉を使ったのではないだろうかと憶測した。とすれば、マイケルの “THIS IS IT” も、「一番大事なのはそれ!」ということになるのか……。


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