私はビートたけしという人に対して、人気が先行した毒舌のお笑い芸人という印象を長いあいだ持ち続けていた。監督としての北野武がヨーロッパでずいぶん高い評価を受けていることは知っていたが、作品を積極的に見ようという気持ちはあまりなかった。
先日テレビで、HANA-BIが放映されたときも、まあ、なんとなく見たのである。正直、魂消た。ビートたけしが複眼の大した役者であること、北野武がそれを俯瞰した希有な監督であることを知ったからである。
HANA-BIのテーマは、どこまでも人間の優しさであり、愛なのだが、執拗に暴力を絡ませる手法は半端なものではない。これでもか、これでもかというほどの銃弾が肉体に打ち込まれる。そうやって、徹底的にしかも易々と地獄を現成させる。そんななかで、きわめて日常的で平和な営為である花火が、哀しいほど立派に物語の主人公になるのだ。
また暴力と病の物語の間に挿入される絵画のすばらしさはどうだろう。動と静の絶妙のコントラストに、私はただ息を飲んだ。絵の作者が北野武と知って、さらに驚愕した。黒澤明が「ああ、タケちゃん」と、監督としての北野武をすっかり受け入れたと聞く。然りと思った。